Wednesday, January 10, 2018

「オランダへようこそ!」



「オランダへようこそ」全文



ダウン症のお子さんのお母さんであるエミリー・パール・キングスレーさんが1987年に書かれた詩
「オランダへようこそ」を紹介します。

ドラマ「コウノドリ」の中で読まれた詩です。心を打たれました。生きていれば「こんなはずじゃなかった」ということはあります。その時にどのように考えて前向きに生きていくか。それを示唆した素晴らしい詩です。



私はよく「障がいのある子を育てるのってどんな感じ?」と、聞かれることがあります。
そんな時私は、障がい児を育てるというユニークな経験をしたことがない人でも、
それがどんな感じかわかるようにこんな話をします。
赤ちゃんの誕生を待つまでの間は、まるで、素敵な旅行の計画を立てるみたい。
例えば、旅先はイタリア。山ほどガイドブックを買いこみ、楽しい計画を立てる。
コロシアム、ミケランジェロダビデ像、ベニスのゴンドラ。

 

簡単なイタリア語も覚えるかもしれない。とてもワクワクします。
そして、何カ月も待ち望んだその日がついにやってきます。
荷物を詰め込んで、いよいよ出発。数時間後、あなたを乗せた飛行機が着陸。
そして、客室乗務員がやってきて、こう言うのです。



「オランダへようこそ!」 
「オランダ!?」
「オランダってどういうこと??
私は、イタリア行の手続きをし、イタリアにいるはずなのに。
ずっと、イタリアに行くことが夢だったのに」
でも、飛行計画は変更になり、飛行機はオランダに着陸したのです。
あなたは、ここにいなくてはなりません。
ここで大切なことは、飢えや病気だらけの、こわくてよごれた嫌な場所に連れてこられたわけではないということ。
ただ、ちょっと「違う場所」だっただけ。
だから、あなたは新しいガイドブックを買いに行かなくちゃ。
それから、今まで知らなかった新しいことばを覚えないとね。
そうすればきっと、これまで会ったことのない人たちとの新しい出会いがあるはず。
ただ、ちょっと「違う場所」だっただけ。

 
イタリアよりもゆったりとした時間が流れ、イタリアのような華やかさはないかもしれない。
でも、しばらくそこにいて、呼吸をととのえて、まわりを見渡してみると、オランダには風車があり、チューリップが咲き、レンブラントの絵画だってあることに気付くはず。
でも、まわりの人たちは、イタリアに行ったり来たりしています。
そして、そこで過ごす時間がどれだけ素晴らしいかを自慢するかもしれないのです。


きっと、あなたはこの先ずっと「私も、イタリアへ行くはずだった。そのつもりだったのに。」と、いうのでしょう。
心の痛みは決して、決して、消えることはありません。
だって、失った夢はあまりに大きすぎるから。
でも、イタリアに行けなかったことをいつまでも嘆いていたら、オランダならではの素晴らしさ、オランダにこそある愛しいものを、心から楽しむことはなかったでしょう。
みんなとは違う土地だけど、私はオランダを思い切り楽しんで、そして大好きになりました。 
オランダへようこそ!

 


エミリー・パール・キングスレー
子供向けTV番組「セサミ・ストリート(SESAME STREET)」でエミー賞を受賞した作家